最近は、日本人の若い人でも刺青(タトゥー)をしている人を見かけます。
一昔前まで「刺青=ヤクザ」というアウトローなイメージがありましたが、海外のアーティストなどタトゥーを入れているアウトローではない人を見かけることも多くなったことからか、刺青に対するイメージも変わってきたのかもしれません。街中では刺青を入れるための「タトゥーショップ」を見かけることもしばしば。
そんな刺青に関して、前から素朴な疑問がありました。
他人の肌に針を刺して刺青を入れる彫師(刺青師)になるためには資格とか必要なんだろうか?
でもそんな国家資格とか聞いたことないような…
そんなとき、最高裁である判決がありました。
2020年9月16日付で出された判決は「他人に刺青を入れる行為は医師法には違反しない」というものでした。
これまで厚生労働省は「皮膚に貼りで色素を注入する」つまり「入れ墨」は「医療行為」なので、「他人に入れ墨を入れる行為には医師免許が必要だ」という見解でした。
弁護士さんのホームページでもそう説明しているページを見かけます。
ところが、最高裁判決では「医師法違反ではない」という驚きの判決が示されました。
いったいその理由は?
彫師・刺青師(いれずみし)とは?
日本の刺青文化と刺青師
日本では昔から刺青を入れる文化がありました。最も盛んだったのは江戸時代と言われていて、その後歴史の変遷とともに刺青の意味や形が変わっていったそうです。時代の変遷の中で意味や形が変わりながらも、彫師(ほりし)、や刺青師(いれずみし)と呼ばれる、刺青を入れる人たちが技術を受け継いできました。
江戸時代が終わり、明治時代になると刺青は法律で禁止されました。
1899年(明治32年)、入れ墨を禁止する「文身禁止令」です。
「文明開化」のための政策の一つとされ、ちょんまげやお歯黒なども禁止されました。
刺青禁止の歴史については、この論文が参考になりました。
「文身禁止令」の成立と終焉-イレズミからみた日本近代史-
刺青師は昔からあった職業だった
中学生のための職業について解説しているサイト「13歳のハローワーク」では、刺青師を一つの職業として解説していました。
腕などにハートやドクロを彫るという小さいものから、背中一面に彫る唐獅子牡丹のような大きな図柄まで、刺青といっても多様だ。
13歳のハローワークより
刺青は一度入れると基本的に一生消えないため、彫る前に客と綿密な打ち合わせを行い、下絵作りや針作りなどの下準備に入る。肌にじかに針を刺すので、もっとも気をつかうのが衛生面。針は医療用の滅菌機で完全に滅菌し、使用後は捨てる。
刺青師になるには、基本的には弟子入りが必要。はじめは雑用をこなし、その後、師匠の仕事を手伝いながら、針作り、下準備、片付けなどを覚え、彫りも師匠の技を見て学んでいく。はじめは自分や弟子仲間のからだで練習を重ねていくことが多い。
他人に入れ墨を入れるのは医療行為ではない?
現在の法律では、刺青そのものを禁止してはいませんが、さきほども書いたように、先日まで、他人に刺青を入れるには「医師免許」が必要とされてきました。
ところが、冒頭にも書いた通り、昨日の最高裁判決で医師免許は不要という判断がなされました。
タトゥー施術は医師免許不要 最高裁が初判断
日経新聞 2020/9/17 22:10タトゥー(入れ墨)の施術は医師免許が必要か――。最高裁第2小法廷(草野耕一裁判長)は医師法違反事件の上告棄却決定で、医療行為に当たらず医師免許は不要とする初判断を示した。健康被害のリスクは「医師が独占的に施術する以外の方法で防ぐしかない」としている。
日経新聞
(中略)
タトゥーの施術は「美術の知識・技能が必要で、歴史的にも無免許の彫師が行ってきた実情がある」とし、「社会通念に照らして医療行為とは認めがたい」と結論づけた。
医師免許を持たない刺青師が施術したことに対する医師法違反に関する裁判だったのですが、一審で有罪、二審で逆転無罪、そして今回最高裁で「無罪」と判断されました。
「入れ墨」は「医療行為」なので「医師免許が必要だ」という国の主張に対して最高裁は「刺青を入れるのは医療行為ではない」との判断を示したことになります。
刺青を入れる行為が医療行為に当たらない理由とは?
刺青(タトゥー)の施術には装飾的な要素があり、長年医師免許のない彫師が施術してきた実情も踏まえ、医療行為に当たらないと判断したとのことです。
医師法が定める医療行為とは「医療や保健指導に属する行為のうち医師が行わなければ保健衛生上の危険が生じる恐れがあるもの」という判断です。
3人の裁判官の考えは全員が一致していたそうで、医療行為に当たるかどうかは、目的や相手との関係社会の受け止め方等を踏まえ社会通念に照らして判断するべきだと述べたそうです。
判決の理由をまとめると、以下の2点になります。
①刺青(タトゥー)の施術については美術的な意義がある社会的な風俗として受け止められてきたこと。
②刺青(タトゥー)は美術などの知識や技能を有する行為で、医師免許を取得する過程でこうした知識などを習得していないこと。
ただし、最高裁は「規制の必要がない」とは言っていない
結論として、現在の法律では「他人に刺青を入れることに対して特別な資格は必要ない」というのことになります。
ただ、今回の最高裁の判決は、医師法には違反しないというものの「規制の必要はない」とまでは言っていません。
厚生労働省2001年に「針先に色素をつけ肌に入れる行為は医療行為に当たる」との通知を出した理由は、色素を注入して眉毛を描くアートメイクで健康被害が多発したことによります。
最高裁判所も危険を防ぐという観点から、「施術の需要そのものを否定すべき理由はない。危険を防ぐ規制をする場合は新たに立法をすべきだ」との見解を示しています。
刺青裁判の判決を踏まえて思うこと
今回の裁判で示されたのは、伝統と芸術的な要素がある刺青を彫ることは「医療行為」ではないので、「医師法」違反には当たらない、ということはですが、早くなんらかの規制がされるほうがいいのにと思いました。
針を刺したり傷をつけ、感染や傷害のリスクがあってもアートだからルールは不要ということなら、仮にもっと体を切りつけるアートがあったとしたらどこまでがOK?
そう考えると、刺青師という職業に規制がないのは不自然です。
まとめ
今日は、刺青が医療行為かどうかを巡った裁判の最高裁判決を踏まえて思ったことを書いてみました。
海外では刺青師をライセンス制にしている国もあります。
僕は今後も刺青を入れることはありませんが、何らかの法整備があったほうがいいんじゃないのかな、と思うところです。
みなさんはどう思いますか?
最後までお読みいただきありがとうございました。
コメント
鍼灸師には資格が必要なのに、刺青師にはなぜ資格が必要ないのか?
鍼灸という「治療行為」と刺青という「アート」の違いはあっても、どちらも肌に直接針を刺す行為という意味では同じなのでは?
⇒医療行為に当たるかどうかは、目的や相手との関係社会の受け止め方等を踏まえ社会通念に照らして判断するべきだと述べたそうです。
答え、上に自分で書いてらっしゃるじゃないですか。
yoshiさん、コメントありがとうございます。
法律の判断は、医療行為なら医師法の規制が必要、でも刺青は医療行為ではないので「医師法」という法律による規制はあてはまらないという意味だと思います。
「医療行為」でないなら、たとえ傷害や感染リスクがあっても資格制度による規制はいらないのか?という意味だったのですが、僕の書き方が悪かったですね。
誤解がないよう編集しました。コメントありがとうございました。