2020年3月30日の午前中、新型コロナウイルスに感染し闘病していたお笑いの大御所タレント、志村けんさん(享年70歳)の訃報が流れました。
大人から子供まで日本中の多くの方が知っている「身近な」人がコロナウイルスに倒れたことに、日本中の誰もが驚いたのではないでしょうか。
志村さんほどの超有名芸能人なら、きっと最高の医療を受けていたはずです。
志村さんがまだ治療をうけていた時に流れたニュースの中で、ECMO=エクモによる治療を”治療の切り札”として報道されていました。
志村は都内の入院先で人工心肺装置「体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)」による治療を受けている。心臓と肺の役割を同時に果たす装置で、患者の肺を休ませて自身の免疫による回復を待つ。新型コロナウイルスの患者を救命するための“切り札”とされ、11日までに装着した患者23人のうち、12人は装置を外すまでに改善している。
(スポニチ3/27)
”切り札”とまで書かれていたのに、残念な結果になってしまったECMO=エクモとは何なのか?
調べてみると、エクモによる治療の難しさや課題などがわかってきました。
今日は、人工心肺装置ECMO=エクモについて調べたことをまとめてみました。
ECMO=エクモとは?
ECMOは「extracorporeal membrane oxygenation」の略です。
新聞記事にもあったとおり、日本語では「体外式膜型人工肺」といい、エクモを使った治療は「人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療」のことを指します。
エクモは、静脈から血液を抜いて、人工肺に送り、血液を酸素化し体に戻す装置で、肺の状態が特に悪いときに使われることがあります。
エクモ ECMOによる治療はどんな人が対象(適応)になるのか?
ECMO=エクモは多大な費用を消耗し、多くのスタッフの労力を必要とするため、エクモを使った治療は誰にでも行うものではないそうです。
エクモが適応されるのは、人工呼吸器や昇圧薬など、通常の治療では救命困難な重症呼吸不全や循環不全のうち、可逆性の病態の場合です。
「可逆性の病態」とは簡単にいうと「治療したら元に戻る病気の状態」です。
ECMOは呼吸と循環に対する究極の対症療法であり、根治療法ではありません。通常の治療では直ちに絶命してしまう、または臓器が回復不能な傷害を残すような超重症呼吸・循環不全患者に対し、治癒・回復するまでの間、呼吸と循環の機能を代替する治療法です。
(藤田医科大学 麻酔・侵襲制御医学講座HPより)
つまり、「重症化して今にも死んでしまいそうな人」が対象です。
治療というより蘇生の一種なんですね。
エクモ ECMOによる医療はどこでも受けられるのか?
新型コロナウイルスによる重症肺炎でも使用されているエクモは、全国の感染症に対応する病院(感染症指定医療機関)では600台以上保有されており、使用中の2割を除き、8割が対応可能となっています。その他の医療機関でも、エクモは保有・使用されています
(2020年3月3日(火)時点 厚生労働省調べ)。
「全国」で600台となると単純に全国47都道府県で割ると12台程度。民間医療機関での台数を含めるともう少しあるかもしれませんが、それにしてもかなり少ない数だと思います。
機器の台数や専門性を考えると、どこでも受けられる治療ではなさそうです。
エクモ ECMO にかかる費用
エクモECMOによる治療には、いくらくらい費用がかかるのでしょうか?
エクモは、心肺停止な、他の処置では厳しい状況下で使用されます。
エクモ単体で使用されるわけではなく、一概にいくらとは言えないようです。
その他の処置も含めてかなり高額にはなりそうです。
ただし健康保険が適用されるのであれば高額医療の対象になるので自己負担額には上限があります。
医学専門書のINTENSIVIST 5巻2号 (2013年4月)の文献概要にこんな記載があります。
院外発症の心肺停止患者にECMOを導入する治療法extracorporeal cardiopulmonary resuscitation(ECPR)に,その費用,労力に見合うだけの効果があるのか疑問に思うことはないだろうか。VA ECMO(PCPS)を導入すると,その手技料,材料費だけでも約50万円かかる。さらに,救命救急入院料もかかり,低体温療法,大動脈内バルーンパンピング(IABP),持続的血液透析濾過(CHDF),冠動脈ステント留置などを同時に行うため,高額な医療費がかかることになる。
INTENSIVIST 5巻2号
エクモ ECMOによる治療にはまだまだ課題がある
エクモによる治療にはまだまだ課題があるようです。
日本呼吸器学会のエクモに関するレポートによると、エクモの課題は、その技術を維持するための症例数が少ないことがあげられます。
先進国での 1 年間の成人呼吸不全に対する ECMO 症例数は人口100万人あたりの3~4例程度と考えられているそうです。
この数字をベースに考えると、日本の成人に対するECMO症例数は、年間400例程度。もしも全国の救命救急センター約250施設すべてがECMOを所有していると仮定すると、1 施設あたりの年間の症例数は 1~2 例となる。これは、ECMO の技術を維持するためには不十分なんだそうです。
ECMOの技術は特殊であり、自施設でECMOスペシャリストを養成する必要がある。またトラブルシューティングのトレーニングは、医師、看護師、臨床工学技士に対して、毎週 1~2 回定期的に行わなければ、技術を維持することはできない。その労力や費用を考慮すると、年間 1~2 症例では足りず、症例数は年間 20 例以上が適切である。
日本呼吸器学会HP エクモに関するレポート
まとめ
今日は、志村けんさんが当時受けていたエクモという治療について調べてみました。
まとめるとこんな感じです。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。
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